タゴール詩集 ギタンジャリから


詩集 ギタンジャリ(GITANJALI)
ラビンドラナート・タゴール(Rabindranath Tagore)
訳:高良とみ 【訳者著作権存続中】


20

蓮(はちす)の花が咲いた時 ああ わたしの心は
さ迷っていて それを知らなかった。
わたしの篭は 空っぽで
花に気付きもしなかった。

ただときどき 悲しさがわたしの上に来て
わたしは 夢からふと目覚め
南風の中に妙な香りの
あまい跡を 感じた。

そのほのかな 甘さが
わたしの心をあこがれで痛めた。
それは 夏が終わろうとするための
切ない吐息とも思えた。

その時 わたしは知らなかった その花が
そんなに近くにあり
又わたしのものであることを。
この上ないやさしさが 花開いたのは
わたしの心の底であったことを。



タゴール詩集/ギタンジャリ…神への捧げ歌
(青空文庫 より)

蓮の花が美しく咲く姿をみると、
タゴールの詩を思い出す。そして

「その時 わたしは知らなかった その花が
そんなに近くにあり
又わたしのものであることを。
この上ないやさしさが 花開いたのは
わたしの心の底であったことを。」

というギタンジャリの詩句に、ふと
ミヒャエル・エンデ「モモ」で描かれた
「時間の花」の、咲いては散り、
また豊かに咲き香る、優しい夢のような
イメージが重なって浮かんできた。

開いてはつぼむ蓮の花、その一輪ずつに
鮮やかな夏の命が宿っている。
どの花にも、どの花にも心奪われる。



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