ginmuru-meru ・STORY ハニワくんノート No.1・

 
 
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ハニワくん ノート

(No.1)

 

 

・ Twitter @ginmuru_meru より ・

 

ー まよなかのハニワくん ー

 

 

 

「ゆずりの丘」には、

ずっと昔の王さま姫さまのお墓があって、

丘の大岩におねがいすると、

日照りに雨がふったり、

災いからかくまってくれたり、

きれいなお皿や器をかしてくれたりするのだと、

幼い日にぼくは、

おばあちゃんから聞いたことがある。

 

かごめかごめ かごのなかのとりは

いついつでやる よあけのばんに

つるとかめが すべった

うしろのしょうめん だあれ?

 

夕ぐれ、どこからか歌がながれてくる。

女の子の声だけど、あたりにひとかげはない。

「ゆずりの丘」は、木々をきりたおされ、

シャベルカーで土をけずられ、工事中だった。

 

うすぐらくひとけのない工事現場、

立ち入り禁止のさくをくぐり、

ぼくの手からリードをうばったシロが、

わんわんほえながら、かけていく。

「もどってこい、そっちいっちゃだめだ、シロ」

大声でよんでも、シロは

掘りかえされた土の山のまわりで

においをかいだり、前足でほったり。

「もどってこい!」

 

ようやくふりかえったシロは、

大きな土のかたまりをくわえて、

まっすぐこちらにかけてきた。

「なんだろう、これ」

両手にとると、ずしりとおもい。

ぽろぽろと土のかけらがくずれおち、

その中にかたくてなめらかな、

つつのようなものがみえた。

もう日がおちて、あたりはくらい。

とりあえずうちにかえろう。

 

なぜかどきどきして、こっそりもちかえったそれを、

ぼくは、じぶんの部屋でじっくりしらべてみた。

土をおとすと、それは素焼きのハニワだった。

どこからどうみてもハニワなのだった。

よろいをきて、かぶとをかぶって、剣をもっていた。

かぶとの下の目はぽっかり黒い穴で、口をまよこにむすんでいた。

 

博物館のガラスケースのむこうにいるハニワも、

こんな目でぼくをみていた。

いま、ぼくのまん前で土によごれたハニワが、

なにか言いたげにこちらをみつめる。

「ないしょだぞ、シロ」

ワン、とシロがちいさくほえた。

ほんとは、ここにあってはいけないものかもしれない、

でもシロがみつけたんだ。

 

夜になっても机のハニワが気になってねむれず、

うとうとしたけれど、すぐに目がさめてしまった。

月あかりが窓からさしていた。

ハニワの影が、机をつたって床にまで長くのびていた。

かぜがそよいで、ふとその影法師がうごいた。

ぼくは、ベッドからおきあがった。

くろい影法師がすっくと立った。

 

「ここは、どこだ?」

影法師がつぶやいた。

月あかりがかげって、部屋はやみにつつまれた。

「いまは、いつだ?」

影法師はきえず、銀のりんかくがおぼろげに光った。

「わたしは、だれだ?」

月あかりがさすと、

かがやくよろいをまとった男が、ぼくをみていた。

とてもわかい。ぼくよりは年上だけど。

 

「おもいだせない……」

よろいの若者が、かなしげにいった。

「おもいだせない……?」

ぼくがつられてくりかえすと、若者はこくりとうなずき、

月あかりにすけている自分の手をみつめた。

「なら、しばらくここにいたら?おもいだすまで」

よろいの若者はだまって月をみて、ぼくの言葉にうなずいた。

 

「かわらないこの光だけ、おぼえている」

月あかりにつつまれ、影法師の剣がきらりとひかった。

 

こうしてハニワくんはぼくの部屋にすむことになった。

ほんとの名がわからないから、ハニワくん。

「ゆずりの丘」の工事現場でみつけたハニワは、

古いオモチャとまぜてクローゼットのおく、そっとかくした。

 

ぼくが学校にでかけると、

ハニワくんはふわっと風にのって街をながめたりするらしい。

ハニワくんは「おもいだせない」が口ぐせだが、

むかしの人にしてはずいぶん物知りで、漢字にくわしい。

ぼくが宿題をさぼっていると、しろいノートをながめて

「こういんりゅうすい」

なんて、むずかしいことをいう。

 

「こ、こういん……りゅう……?」

「光陰流水」

ハニワくんは、ふいとわらう。

「光は太陽、陰は月。

日月のめぐりは流れる水のようにはやい。

しっかり学べよ」

学校の先生みたいにまじめなことをいうハニワくんだけど、

ひたすらまじめなだけで、いばってはいない。

だからまあアニキみたいなかんじ。

 

学校といえば……

ハニワくんがもといた古墳「ゆずりの丘」の

森はきられて土はけずられ、

工事がすすんで大きな学校が建ちかけている。

ハニワくんにその話をしたら、古墳のこともわすれたそうだ。

「あとからくる者たちに、場をゆずるのもしかたないか。

学びの場になるのなら」

と、さびしそうにいった。

 

 

(2018.9.17)

 

 

 

 

 

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