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犬になった王子 チベットの民話

 

 

 

- 種をまく犬 -

 

このごろ、とても心惹かれた絵本があります。

 

「犬になった王子 チベットの民話」

(君島久子 文・後藤 仁 絵、岩波書店、2013年)

 

この絵本の原話は、

四川省のチベット族の古い伝承で、

主食ツァンパの原料となる大麦の種が

どのように部族にもたらされたかを語る、

天地創造につぐ重要な神話だそうです。

 

はるかな苦難の旅の末、

蛇王から種を盗んだプラ国のアチョ王子は、

犬の姿に変えられてしまい、

その呪いをとくためには、

ロウル村の美しい娘ゴマンの、

愛と試練とが必要でした。

犬が首に種のふくろをかけ、

その種をまきながら旅する後を、

芽や成長した麦の跡をたどってゴマンが追い、

とうとう金色に大麦が実るプラ国で、

人間に戻れたアチョと村娘ゴマンは、

幸せな王と王妃になります。

 

プラ国とロウル村の間には

幾千里という麦穂の土地が広がっていた、という

雄大な恵みの物語には、

大切な人を探して種をこぼしつつ世界をめぐる

大地母神の面影が宿っています。

北欧のフレイヤ、ギリシアのデメテル、エジプトのイシスなど

有名な女神の類話がいくつも思い浮かびますが、

こんなに愛と冒険の旅が美しく語られている古い伝承を、

初めて読みました。

地を耕す人々の祈りがこもっています。

慈愛に満ちた日本画の挿絵が、

風土に根ざした豊かな抒情性で

物語の世界観を伝えてくれます。

 

アチョ王子が姿を変えられた犬ですが、

古代エジプトでは大犬座のシリウスが

「イシスの星」であり、

東の空で曙光を先導して輝くシリウスは、

雨期(ナイルの氾濫期)と新年の訪れとを告げる、

豊穣のしるしでした。

犬が種をまく物語には、

あるいはそんな背景が隠れているかもしれません。

 

2018年の暦の干支は「戊戌」

どうか実り豊かな年でありますように。

 

 

(2017.12.16)

 

 

 

 

 

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