ゆふすげびと 立原道造


かなしみではなかつた日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた、
それはひとつの花の名であつた
それは黄いろの淡いあはい花だつた、

僕はなんにも知つてはゐなかつた
なにかを知りたく うつとりしてゐた、
そしてときどき思ふのだが 一体なにを
だれを待つてゐるのだらうかと。

昨日の風は鳴つてゐた、林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に咲いてゐた、そうしてけふもその花は

思ひなしだか 悔ゐのやうに――。
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔ゐなく去らせたほどに!


( 青空文庫 立原道造「ゆふすげびと」より
初出:「立原道造全集 第一巻」角川書店 1971.6 )
立原道造 ゆふすげびと (aozora.gr.jp)

( 2023.11.4 イラスト作成 Bing Image Creator )

夏の弔ひ(立原道造「萱草に寄す」より) – あかり窓 (memoru-merumo.com)

満月(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


満月(Bing Image Creator)

秋も深まる満月の日、
夜には咲かないはずの
ワスレグサの花の子が、
そっと目を覚まして
とおい向こう岸を見つめます。
赤いランタンをともし、
夜明けまで。

……もし水面(みなも)にうかぶ
金の毬(まり)をひろえたら、
夢の中で遊べるわ……

赤い目をしたカエルは、
いくつかの冬をこえ
もうすっかりおじいさん。
古池にゆれる金の毬(まり)を、
いつか両手でつかまえて
あの子に会いたいけれど……

あの子は、自分のことを
おぼえているだろうかと
なんだかすこし心配で……
秋には咲かないはずの
ワスレナグサの花に埋もれ
とおい夏の日の夢がたり。
忘れないでおくれよ、
わたしの歌を。

けろろけろろ
季節外れの歌を、
まんまるい月にてらされ
夜明けまで……

また、会えたらいいのにね。


Happy Halloween !


( 2023.10.29 イラスト作成 Bing Image Creator )

カエルが夜になくわけは – レモン水 (ginmuru-meru.com)

ゆふすげびと 立原道造 – レモン水 (ginmuru-meru.com)


緑の曙光(Bing Image Creator)


闇からめざめる緑の風、かがやく使者、
曙光を汲み、すきとおる新芽の色の杯、
緑閃光という名の魔法のつばさ。

時わたる羽音の訪れに、
星の光の泉はさざめき、
新しい季節の芽吹きを玉に刻み祈る。

伝えられたはずのその名も知らぬ、
古き女神の歩みは蛇のようにひそやか、
風に舞う羽根ほどにもかろやか。

( 2021.11.18 Twitter より )
( 2023.8.11 イラスト作成 Bing Image Creator )


緑の曙光(2) – レモン水 (ginmuru-meru.com)