
花の色は
うつりにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに
(小倉百人一首 9番 小野小町 『古今集』春・113)

ときどきクリア希求
幸多い年でありますように。
くろうさぎは、おおいそがし。
こんやじゅうに、たくさんのおくりものを
くばらなくては。
さむいきたのくにで、くろうさぎは、
みずうみのこおりのかけらをすくって、
まほうびんにいれました。
「こおりがとけないうちに、はやく
かえってきてね」
うちでまっている、しろうさぎが
そうおねがいしたからです。
「さあ、しごとはおわった」
ゆきのはらにそりをはしらせ、
もりのうちにかえろうとしたとき、
くろうさぎは、こごえたいちわの
つばめをみつけました。
「みなみのくにまで、もうひとっぱしり!」
そりをひくトナカイが、
よぞらにすずのねをひびかせ、
まいあがりました。
とべないつばめをのせて……
やまをこえ、かわをこえ、
さむいきたのくにから
あたたかなみなみのくにまで、
とおくとおくそりはかけて、
ようやくつばめは、なかまのもとへ。
「よかったね、まいごさん」
くろうさぎは、ほっとしました。
でも、はしりつかれたトナカイは
「もううごけないですよぉ」
と、おはなをまっかにして
あせびっしょりです。
「つめたいこおりで、げんきをだして」
くろうさぎは、まほうびんの
こおりのかけらを、トナカイにそっと
さしだしました。
こおりはすぐにとけて、
きれいなみずになりました。
トナカイは、つめたいみずをのんで、
しゃんとたちあがっていいました。
「もうすぐよがあける。はやく
うちにかえりましょう」
ほしがきえてあさひがのぼるころ、
トナカイのそりは、もりにつきました。
「おかえりなさい」
しろうさぎが、まっていました。
「こおりはとけてしまったよ。
すまないが、かわりにこれを」
くろうさぎのてには、いちりんのはな。
「まあ、ひとあしはやい、はるのかおり」
しろうさぎは、にっこり。
「みなみのくにに、よりみちしたよ」
くろうさぎのことばにうなずいて、
しろうさぎは、テーブルのグラスに、
はないちりんをかざりました。
「みずうみのこおりをうかべた
このグラスでふたり、かんぱい
するつもりだったけど」
テーブルには、おいしそうな
あさごはんがならんでいます。
「なんてやさしい、はるのいろ」
みなみのくにや、きたのくに、
ひがしのくにに、にしのくにでも、
とどけられたおくりもののつつみが、
そろそろ、ひらかれているでしょう。
たくさんのえがおをおもいうかべ、
おなかがいっぱいになった
くろうさぎとトナカイは
あくびをしました。
おやすみなさい、みなさん、
よいゆめを……
(2020.12.25 Twitter より)