昨日見し恋忘れ貝(Bing Image Creator)


住吉尓 徃云道尓 昨日見之 戀忘貝 事二四有家里

住吉に
行くといふ道に
昨日見し
恋忘れ貝
言にしありけり

すみのえに
ゆくといふみちに
きのふみし
こひわすれがひ
ことにしありけり

作者不詳
( 万葉集 第7巻 1149番歌 )

万葉集 第7巻 1149番歌/作者・原文・時代・歌・訳 | 万葉集ナビ (manyoshu-japan.com)


住吉に行くという道に
昨日見つけた恋忘れ貝は、
言葉だけなのですね……
(今日になっても恋は忘れられない)

住吉は墨之江(黒い江)つまり
天の川を指す、という説がある。
かなわぬ恋を忘れさせる貝殻は、
二枚貝の片割れ……片方の羽を失い、
彼岸へと渡れない蝶をイメージさせる。

此岸に残された者をなぐさめるという
「恋忘れ貝」だけれども、今なお
想いをつのらせるばかりだ、という
詠み人知らずの嘆きには、海や夜空に
ひびく万葉の詩情が宿っており、
後の時代に七夕伝説が広く流行する
素地が感じられる。


岸におふてふ – あかり窓 (memoru-merumo.com)

住の江の岸に(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


( 2024.7.4 イラスト作成 Bing Image Creator +微修正 )


うつりにけりな


花の色は
うつりにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに

小野小町
(小倉百人一首 9番 『古今集』春・113)

Color of the flower
Has already faded away,
While in idle thoughts
My life passes vainly by,
As I watch the long rains fall.
(Ono no Komachi)

( Clay MacCaule版 1917年出版 )
Hyakunin Isshū – Wikisource, the free online library
Petals and Moon — 英語で百人一首 (petals-and-moon.blogspot.com) 様より


1917年出版の英訳「百人一首」では、
「花の色は」桜の花に限定されない
“Color of the flower”
と表現されているそうだ。

写真は、公園で撮ったノヴァーリス。
薄紫の青薔薇。
青い薔薇は存在しないはずだったが、
品種改良を重ねて誕生した品種で、
ノヴァーリスの幻想小説「青い花」に
ちなんで名づけられたという。

花の色も花の名も、
古今東西さまざまに移ろって
その移ろいの有り様は、趣深い。


花の色は – レモン水 (ginmuru-meru.com)


天の原(Bing Image Creator)


天の原 ふりさけ見れば 春日なる
三笠の山に 出(い)でし月かも
            阿倍仲麿

( 小倉百人一首(7番)『古今集』羇旅・406 )

哭晁卿衡
   李白
(全唐詩·卷184)

日本晁卿辭帝都
征帆一片繞蓬壺
明月不歸沈碧海
白雲愁色滿蒼梧

(書き下し文)
日本の晁卿(ちょうけい)帝都を辞し
征帆一片(せいはんいっぺん)蓬壷(ほうこ)を遶(めぐ)る
明月は帰らず碧海(へきかい)に沈み
白雲愁色蒼梧(そうご)に満つ

(通訳)
日本の晁衡卿は帝都長安を離れ
帆を張った舟は蓬莱の島々をめぐって行った。
明月のような君は青い海に沈んで帰らず
白雲がうかび、愁いが蒼梧に満ちている。

>益久島(現在の屋久島)に向けて出帆した4隻のうち、仲麻呂や清河の乗船した第1船が暴風に遭って南方へ漂流した。彼が落命したという噂を伝え聞いた李白は「明月不歸沈碧海」の七言絶句「哭晁卿衡」を詠んで仲麻呂を悼んだ。しかし、仲麻呂が乗船していた第1船は、以前平群広成らが流されたのとほぼ同じ漂流ルートをたどり、幸いにも安南に漂着していた。


李白:哭晁卿衡 – Web漢文大系 (kanbun.info)

阿倍仲麻呂 – Wikipedia より引用


( 2024.4.5 イラスト作成 Bing Image Creator +加工 )