誰かまた花橘に


誰かまた
花橘に
思ひ出でむ
我も昔の
人となりなば 

藤原俊成
( 新古今和歌集 238 )


五月待つ
花橘の
香をかげば
昔の人の
袖の香ぞする

( 古今和歌集 夏 詠み人知らず )


( 2023.12.2 イラスト作成 Bing Image Creator +CG加工 )


住の江の岸に(Bing Image Creator)


道しらば
摘みにもゆかむ
住の江の
岸におふてふ
恋忘れ草

( 紀貫之 古今和歌集 恋・1111 )

住の江の
岸による波
よるさへや
夢の通ひ路
人目よくらむ

( 藤原敏行朝臣 小倉百人一首 18番 古今和歌集 恋・559 )



( 2023.11.11 イラスト作成 Bing Image Creator )


夢の通ひ路 – あかり窓 (memoru-merumo.com)

萱草(忘れ草) – レモン水 (ginmuru-meru.com)

昨日見し恋忘れ貝(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


萱草(忘れ草)


(萱草の精が語る……)

「夏の真昼、夕焼け色に咲くのは
今日をわすれないでほしいから。
昨日の涙はわすれましょうよ。
訪れる日暮れに目をとじたなら、
明日も咲いていられるか
わからないけれど」

「明日の夜明けが
若草色にもえたなら、
また会えるかもしれないわ。
もし水面(みなも)にうかぶ
金の毬(まり)をひろえたら、
夢の中で遊べるわ」

「……そんな言い伝えがあるの」

(古人が詠う……)

道しらば
摘みにもゆかむ
住の江の
岸におふてふ
恋忘れ草

 ( 紀貫之 古今和歌集  巻第十四 恋歌四 1111 )


( 2023.11.11 イラスト作成 Bing Image Creator )


カエルが夜になくわけは – レモン水 (ginmuru-meru.com)

住の江の岸に(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


ゆふすげびと 立原道造


かなしみではなかつた日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた、
それはひとつの花の名であつた
それは黄いろの淡いあはい花だつた、

僕はなんにも知つてはゐなかつた
なにかを知りたく うつとりしてゐた、
そしてときどき思ふのだが 一体なにを
だれを待つてゐるのだらうかと。

昨日の風は鳴つてゐた、林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に咲いてゐた、そうしてけふもその花は

思ひなしだか 悔ゐのやうに――。
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔ゐなく去らせたほどに!


( 青空文庫 立原道造「ゆふすげびと」より
初出:「立原道造全集 第一巻」角川書店 1971.6 )
立原道造 ゆふすげびと (aozora.gr.jp)

( 2023.11.4 イラスト作成 Bing Image Creator )

夏の弔ひ(立原道造「萱草に寄す」より) – あかり窓 (memoru-merumo.com)

満月(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


満月(Bing Image Creator)

秋も深まる満月の日、
夜には咲かないはずの
ワスレグサの花の子が、
そっと目を覚まして
とおい向こう岸を見つめます。
赤いランタンをともし、
夜明けまで。

……もし水面(みなも)にうかぶ
金の毬(まり)をひろえたら、
夢の中で遊べるわ……

赤い目をしたカエルは、
いくつかの冬をこえ
もうすっかりおじいさん。
古池にゆれる金の毬(まり)を、
いつか両手でつかまえて
あの子に会いたいけれど……

あの子は、自分のことを
おぼえているだろうかと
なんだかすこし心配で……
秋には咲かないはずの
ワスレナグサの花に埋もれ
とおい夏の日の夢がたり。
忘れないでおくれよ、
わたしの歌を。

けろろけろろ
季節外れの歌を、
まんまるい月にてらされ
夜明けまで……

また、会えたらいいのにね。


Happy Halloween !


( 2023.10.29 イラスト作成 Bing Image Creator )

カエルが夜になくわけは – レモン水 (ginmuru-meru.com)

ゆふすげびと 立原道造 – レモン水 (ginmuru-meru.com)