星空の恵みを地におろす


sokenk115_1.pdf (andrew.ac.jp)
当麻寺を訪ねて 井本栄一
(桃山学院大学総合研究所紀要 
第25巻第1号87-95p. 1999-09-30 )

「相撲 新年 七夕 穀神」
など思いつく語で検索したら、
こんな論文が見つかった。
ところどころわからない部分もあるが、
面白くて一気読み。
著書多数の権威ある学者さまらしい。
井本英一 – Wikipedia

上記論文「当麻寺を訪ねて」では、
相撲と穀霊とユーラシアに伝わる
豊穣儀礼について詳述され、
とても読み応えがあった。
(一読しただけでは理解しきれていない)
豊穣儀礼と天上
(日月・星・天の川・星座)
との関りについては触れられていなかったが
(それを検索で探していた)
異界・冥界下り・再生と仏教を論じて奥深い。

上記論文では、
3世紀中国の「問礼俗」を例に、
鶏→犬→羊→豚→牛→馬→人→穀物
の順に魂が転生するという
古代の死生観(輪廻転生)が紹介されている。
人の魂が穀物に宿る、という想念は、
宮沢賢治の辞世の句にもみられる。

病(いたつき)の
ゆゑにもくちん
いのちなり
みのりに棄てば
うれしからまし

また賢治の第一詩集に収められた詩
「春と修羅」の
(このからだそらのみじんにちらばれ)
という言葉には、
「宙への供物」として転生する
文化英雄的イメージが含まれている。
銀河の星や稲穂を詠い、
輪廻転生を下敷きとする
宮沢賢治の詩や短歌の世界は、
「女神※がこぼした小麦の種=天の川」
という古代人の神話にも通底する。

※女神=デメテルやイシスなど大地母神
(娘や夫など愛する者を失い、
彷徨い歩く女神が手にした袋から
こぼれた麦の種が天の川だという)

詩や短歌のみならず
星の世界に転生する結末は、
賢治童話において、とても印象的だ。
例 「よだかの星」「銀河鉄道の夜」
(銀河鉄道で物語られるサソリの星なども)

古代の人々は、星を異界の魂に重ねた。
穀物の種に宿る命を死者の転生と思えば、
たとえば天の川を穀物の種に見立てたり、
異界との境界の「忘れ河」に見立てたり、
かがやく天の星に豊穣を願う祈りが
部族や郷土の祖霊と結びついたのも、
ごく自然な心情だったのだろう。

地に生きた先祖は、星になった。
星の恵みで、穀物や海・山の豊穣が
もたらされる……樋(トイ・ヒ)を
トヨと呼ぶ地方があるが、豊川とは
星空の恵みを地におろす樋、
つまり天の川では?
と、とりとめなく夢想した。


桃山学院大学学術機関リポジトリ (nii.ac.jp)

井本栄一氏の論文が多数公開されている。
(大学図書館&インターネットは有難い)


ぶんぶんぶるるん 【改訂新版】|絵本ナビ : バイロン・バートン,手島 悠介 みんなの声・通販 (ehonnavi.net)

賢治の童話ほど自己犠牲的ではなく、
生き物たちの因果がめぐる様を描いた
楽しい絵本を、ふと思い出した。
「ぶんぶんぶるるん」
(バイロン・バートン作 手島悠介訳
 ほるぷ出版 2018.3発行)


( 2023.1.24~28 Twitter より )


翡翠と邪馬台国 – レモン水 (ginmuru-meru.com)

トヨタマヒメ幻想 – ぶるーまーぶる (fairy-scope.com)


双子の星(宮澤賢治)


天の川の西の岸にすぎなの胞子ほどの小さな二つの星が見えます。あれはチュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまの住んでいる小さな水精(すいしょう)のお宮です。
 このすきとおる二つのお宮は、まっすぐに向い合っています。夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩銀笛を吹くのです。それがこの双子のお星様の役目でした。

「お日さまの、
 お通りみちを はき浄きよめ、
 ひかりをちらせ あまの白雲。
 お日さまの、
 お通りみちの 石かけを
 深くうずめよ、あまの青雲。」

 そしてもういつか空の泉に来ました。(中略)

「チュンセ童子、それでは支度をしましょう。」
「ポウセ童子、それでは支度をしましょう。」
 二人はお宮にのぼり、向き合ってきちんと座り銀笛をとりあげました。
 丁度あちこちで星めぐりの歌がはじまりました。

「あかいめだまの さそり
 ひろげた鷲わしの  つばさ
 あおいめだまの 小いぬ、
 ひかりのへびの とぐろ。

 オリオンは高く うたい
 つゆとしもとを おとす、
 アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。

 大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ。
 小熊こぐまのひたいの うえは
 そらのめぐりの めあて。」

 双子のお星様たちは笛を吹きはじめました。


宮沢賢治 双子の星 (aozora.gr.jp)
青空文庫より 抜粋引用