おおかみのクリスマス・イブ

「父さんの仕事は、秘密なんだよね」

「息子よ、すまない。今夜は忙しくてな……」

それぞれの場所で狼星(シリウス)を
ながめるクールな夜。

サンタクロースの贈り物を狙う者達から
みんなの夢を守るため
人知れずパトロール中のおおかみさん、
風邪ひきませんように。


Twinkle, twinkle, little star,
How I wonder what you are!

たとえお前がなんであれ
光れ光れ 小さな星よ


( 2023.12.14 Twitter より )
( 2023.12.14 イラスト作成 Bing Image Creator)


満月(Bing Image Creator)

秋も深まる満月の日、
夜には咲かないはずの
ワスレグサの花の子が、
そっと目を覚まして
とおい向こう岸を見つめます。
赤いランタンをともし、
夜明けまで。

……もし水面(みなも)にうかぶ
金の毬(まり)をひろえたら、
夢の中で遊べるわ……

赤い目をしたカエルは、
いくつかの冬をこえ
もうすっかりおじいさん。
古池にゆれる金の毬(まり)を、
いつか両手でつかまえて
あの子に会いたいけれど……

あの子は、自分のことを
おぼえているだろうかと
なんだかすこし心配で……
秋には咲かないはずの
ワスレナグサの花に埋もれ
とおい夏の日の夢がたり。
忘れないでおくれよ、
わたしの歌を。

けろろけろろ
季節外れの歌を、
まんまるい月にてらされ
夜明けまで……

また、会えたらいいのにね。


Happy Halloween !


( 2023.10.29 イラスト作成 Bing Image Creator )

カエルが夜になくわけは – レモン水 (ginmuru-meru.com)

ゆふすげびと 立原道造 – レモン水 (ginmuru-meru.com)


水の器(絵 Bing Image Creator)

私は土地の長の娘。
幼い頃から人々に
「水の器」と呼ばれ、
大切に育てられました。

ある雨のふらない夏、
私は白い羽の衣をまとい、
水の神に捧げられました。
水の神が訪れたなら、
甕のお酒でもてなすのです。
私はふるえていました。
神の姿をみて
もどってきた「水の器」は
誰ひとりいなかったから。

三日月の光がおりてきて、
誰かが私を呼びました。

月のようにかがやく
剣をかざし、
私の前に立ったのは、
ひとりのみしらぬ旅人でした。
水の神があらわれ、
いくつもの鎌首をもたげ、
私を呑みこもうとしましたが、
旅人はあざやかな剣さばきで
うねる首をかたはしから
切り落としました。
水の神としてあがめられていたのは、
おそろしいオロチだったのです。

たおれた水の神の尾から、
氷のようにかたく
星の雨をしたたらせる剣が、
ひとふりきらめき、あらわれました。
オロチを退治した旅人は
その剣を手にとり、にっこりしました。
「ケガはないか?ぶじでよかった」
やがて彼は、この地に館を築きあげ
「水の器」を妻にしました。

八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに
八重垣つくる その八重垣を(古事記)

あぢさゐの八重咲くごとく
弥(や)つ代にをいませ我が背子
見つつ偲はむ(万葉集)

(水の器と呼ばれて
今は名も忘れられた娘と、
ふらりふらり各地に足あとを
残した風来坊のお話です)

(引用)
古事記・日本書紀歌
万葉集(4448 橘諸兄)

※ hydrangea(アジサイ=水の器)

( 2023.6.5 Twitter より )
( 2023.6.5 イラスト作成 Bing Image Creator )


カエルが夜になくわけは


ある夏の朝、古池のほとりに
きれいな花が咲きました。
朝焼けと夕焼けの色の花びらです。

朝焼けや夕焼けの空は
とおく高すぎるけれど、
咲いたばかりの花なら届く気がして、
古池のカエルが、
ぴょんとはねました。

はねたカエルがのばした手を、
やさしい笑顔がつつみました。
ワスレグサという名の花でした。

この花をみれば悲しみをわすれる、と
昔の人が名づけたままのうつくしさ。
夏の朝ひらき夕べにしおれる、
一日かぎりの花でした。

カエルは
ワスレグサの葉に座ったり、
茎にぴょんぴょん飛びついたり、
ありったけの歌を聞かせたり、
けろろけろろとおしゃべりしたり……
時がたつのもわすれ、
花の子とたのしく遊びました。

「夏の真昼、夕焼け色に咲くのは
今日をわすれないでほしいから。
昨日の涙はわすれましょうよ。
訪れる日暮れに目をとじたなら、
明日も咲いていられるか
わからないけれど」

日暮れ、ワスレグサは風にゆれ、
カエルにさよならといいました。
カエルは
「おやすみなさい、またね」
とこたえました。

「明日の夜明けが
若草色にもえたなら、
また会えるかもしれないわ。
もし水面(みなも)にうかぶ
金の毬(まり)をひろえたら、
夢の中で遊べるわ」

「……そんな言い伝えがあるの」
とワスレグサは、
ふしぎな言葉とほほえみで、
古池にもどるカエルをみおくりました。

そして次の朝がきて、
うつくしかった花はしおれ、
せっかく仲良くなれたあの子が
もういないと知って、
カエルは泣きました。

泣きはらしたカエルの目は、
ホオズキの実のように赤くなりました。

……もし水面(みなも)にうかぶ
金の毬(まり)をひろえたら、
夢の中で遊べるわ……

満月の夜、しずかな古池に
くりかえし飛びこむ水音が聞こえたら、
それは赤い目をしたカエルです。

「いくら水にもぐっても
月の光の毬(まり)はひろえず、
岸にはシダばかり生いしげる。

つめたい水は両手をすりぬける。
すべてわすれさせてくれる
あの笑顔には、もう会えないのか」

カエルは、ほほをふくらませて
大きなため息をつき、
けろろけろろと歌いはじめます。

朝焼けと夕焼けの色をまとい、
月あかりを知らなかったあの子……

カエルは赤い目のまま、
夜どおし古池で歌い、
ずっとまちつづけています、いつか
おとずれる若草色の夜明けを。

……明日の夜明けが
若草色にもえたなら、
また会えるかもしれないわ……

若草色の夜明けなんて
カエルは見たことも聞いたことも
ないけれど、ワスレグサの言葉を
わすれたくはないから。

それにみどりは
カエルの好きな色なのです。
いまも日の出をまちながら、
けろろけろろと
ないていますよ、ほら。

また会えたらいいのにね。



( 2022.8.29 Twitter より 8.30 加筆 )

満月(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)

萱草(忘れ草) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


あまずっぱい……


ムギワラの なえどこで
イチゴが みのりました。

ちいさなころから だっこして
おんぶして、
イチゴちゃんを おもりしてきた
ムギワラにいさん、
たびだつ イチゴちゃんを
なごりおしく みおくります。

「きっと しあわせになるんだよ」
「ええ、にいさんも おげんきで」

(コムギのパンと あかいジャム、
すがたをかえた ふたりが
また であうのは、
すこしあとの おはなしです……)


(2021.3.27 Twitter より)