人ならば
恨みもせまし
園のはな
枯るればかるる
蝶のこころよ
ひとならは
うらみもせまし
そののはな
かるれはかるる
てふのこころよ
障りなく
遠地をわたす
橋なれば
おち破るてふ(という)
類(たぐひ)だに見ず
おち破る蝶
焚く火だに見ず
さはりなく
とほちをわたす
はしなれは
おちやふるてふ
たくひたにみす
藤原定家
(拾遺愚草 巻上:十題百首)
和歌データベース
人だったなら
恨みたくもなりましょう、
園の花が
枯れたなら己の命も尽きる
蝶よ、そのこころよ。
障りなく無事に
はるかな彼岸へと渡らせる
橋だから、そこから
堕ちる破道の類いは一切
見たことがない。
(堕ち破る蝶=夢虫・火虫=魂を
焚く火などはまるで見えない)
……という意味の歌だろうか?
(我流の解釈なので心もとない)
四季折々の野趣に満ちた自然を
織りこみ、ストイックな美意識で
彼岸への憧憬に至る……そんな
意図から構成された自撰和歌集?
という印象を抱いた(十題百首)
「てふ(蝶)」が、
命の儚さと魂の救済という
イメージを帯びていることは、
定家の表現の鮮やかさであり
大きな魅力だと思う。
拾遺愚草 – Wikipedia