ゆふすげびと 立原道造


かなしみではなかつた日のながれる雲の下に
僕はあなたの口にする言葉をおぼえた、
それはひとつの花の名であつた
それは黄いろの淡いあはい花だつた、

僕はなんにも知つてはゐなかつた
なにかを知りたく うつとりしてゐた、
そしてときどき思ふのだが 一体なにを
だれを待つてゐるのだらうかと。

昨日の風は鳴つてゐた、林を透いた青空に
かうばしい さびしい光のまんなかに
あの叢に咲いてゐた、そうしてけふもその花は

思ひなしだか 悔ゐのやうに――。
しかし僕は老いすぎた 若い身空で
あなたを悔ゐなく去らせたほどに!


( 青空文庫 立原道造「ゆふすげびと」より
初出:「立原道造全集 第一巻」角川書店 1971.6 )
立原道造 ゆふすげびと (aozora.gr.jp)

( 2023.11.4 イラスト作成 Bing Image Creator )

夏の弔ひ(立原道造「萱草に寄す」より) – あかり窓 (memoru-merumo.com)

満月(Bing Image Creator) – レモン水 (ginmuru-meru.com)


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