(1) たそがれの館(猫の足跡の器)
(2) 星座の切符(相撲)
(3) 三日月の舟(異界の館)
(4) ねむり姫(不死の酒を断る)
(5) 金の実(苗木や種、書物をさずかる)
(6) ののさまどちら(帰還)
(4) ねむり姫(不死の酒を断る)
門が開くと、黒い子猫が駆け出して、
園庭に入り込む。僕は子猫を追う。
「ののさまどちら」
わらべ歌が流れてくる。
歌っているのは、黄金の仮面を
つけた女性で、黒猫が
その腕に飛び込んで甘えている。
女性は花や果樹の園で舞いつつ歌う。
それは、ハニワくんとの思い出。
ハニワくんとの別れを悲しみ
再会を願う歌。
僕が水瓶の水をさしだし、
「これは、あなたの願う人といっしょに
汲んできた水です」
と声をかけると、
女性は黄金の仮面をはずし、水を飲む。
女性の素顔は、水瓶の姫と瓜二つだった。
館から人が出てきて、
「姫様が目を覚ました!」
と喜び、僕を招く。
黄金仮面の女性の姿は幻のように消え、
案内された館で、ぼくは目覚めた姫と
出会う。姫は黒猫を抱きしめる。
「あなたとそっくりの姫さまから、
この水と器を届けるようにと頼まれました」
猫の足跡のついた水瓶をみて、姫は涙ぐむ。
「あの方は、無事に故郷に帰って、
この陶器の作り方を伝えたのですね、
この足跡はお前がいたずらしてつけたの?」
姫は、自分の代わりに黒猫をハニワくんと
ともに旅立たせたのだという。
ずっとそばにいて欲しかった、
不老不死の効き目があるという酒を献じても、
ハニワくんは飲んでくれなかったという。
姫は、果樹園に僕を案内し、
黄金の実(蜜柑)の樹に、水瓶の水を注ぐ。
(5) 金の実(苗木や種、書物をさずかる)
黄金の実、巻き物、苗木や種などを授けられ、
僕は姫の館にいとまを告げる。
「あの方のために織りました」
と美しい布も託される。
布には、天の川の渡り鳥が織り込まれている。
黒猫は、姫のもとにとどまる。
僕は、土産物を運んでくれた館の人々や
姫に見送られて、星の門を出る。
「この川を生きて渡るのは難しい、けれど
お前は切符を持っている」
僕のポケットにあったオリオン座の切符を、
ハニワくんが受け取る。
岸辺で待っていた渡し守のハニワくんと、
僕を見送るため門に立った姫とが
まなざしを交わす。
岸辺を離れる船、門口で舞う姫。
羽ばたく鳥のように優雅に舞う姫の
黄金仮面から光が広がり、
まるで双子座の門から太陽が
現れたように見える。
太陽のように金の実のように、
あかつきの光が輝く。
天の川の対岸では、かがり火を灯して、
大岩の上で、水瓶の姫が舞っている。
待ちわびた日の出を寿ぐ舞である。
ハニワくんの漕ぐ、月光の帆の船が
ゆっくりと岸に近づく。
(6) ののさまどちら(帰還)
「ののさまどちら」
わらべ歌を夢の中で聞いていた。
僕は机につっぷして眠っていたらしい。
窓から月光が射しこんでくる。
久しぶりに、クローゼットの奥の
おもちゃ箱に隠してあるハニワくんを
机の上に置いてみた。
「姫さまが君を待ってたよ、会いたいって」
「ずっと会いたくて、布を織ったって」
話しかけてみても、ハニワくんは
黙ったまま。
「姫さまは、黒猫といっしょに花園で
花を摘んでいるかな?」
窓から夜空を眺めると、
オリオン座が輝いている。
天の川と双子座も天空にあるはずだけど、
街の灯が明るくて、よく見えない。
でも、きっとそこに輝いている。
また会えるといいな、ハニワくん……