(1)たそがれの館

学校からもどったら、
まっくらなぼくの部屋の窓から、
かたむいた三日月がのぞきこんでいた。

ののさまどちら ねんねをだいて
いばらのかげで はなつんでござれ

やさしい歌が耳をくすぐる。
だれ?
窓からみおろすと、
金色の三日月をうかべた目で、
首をかしげ、ぼくをみつめてくる黒い子猫。

子猫がほそい声で、ミヤァとあまえるようにないた。
おなかがすいているのかな。
ミルクがほしいのだろうか。
ぼくは子猫の声にさそわれ、おもてに出てみた。
黒いかげがしなやかに通りをすべる。
どこにいくのか、金の三日月をうかべた目が、
ふりかえってぼくを見つめる。
あれ、ついてこい、だって?

どこまでいくのか、黒い子猫。
ぼくをふりかえりながら、
街をぬけ、川をわたり、坂道をのぼって。
いつしかここは、ゆずりの丘。
かたむいた三日月がてらす丘。

ここは、昔々の古墳があった場所。
今では新しい学校が建っている…… はずなのに、
あれ、こんな景色だったっけ?
灯のともる館が一軒。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です